2025/11/19 18:34
11月に祝われる二つの大切な守護聖人の日
毎年11月は、世界の帽子職人にとって特別な月です。
この月には、帽子屋の歴史と密接に関わる二人の重要な守護聖人を祝う日があります。
彼らが残した伝説と伝統は、私たちが今日手に取るフェルト帽や華やかな婦人帽に、静かに息づいています。
聖クレメンス(St. Clement):フェルト誕生のロマンを秘めた聖人

11月23日:HAPPY ST CLEMENTS DAY
カトリック諸国のハッター/ミリナー(帽子職人)の間では、フェルトの製法を現代に伝えるきっかけを作ったのが、第4代ローマ教皇である
聖クレメンス1世(Papa Clemens I)であるという古い伝統が伝わっています。
- ローマ教皇第4代:ラテン語で Papa Clemens I と呼ばれる彼は、初代教会時代のローマ司教であり、後に第4代ローマ教皇として列せられた人物です。
伝説:足の痛みがもたらした「奇跡の布」
聖クレメンスが帽子屋の守護聖人となった背景には、ロマンあふれる伝説があります。
旅に疲れた彼が、靴擦れした足の痛みを和らげようとウサギの獣毛をサンダルに敷き、それを踏みしめて歩き続けたところ、獣毛がまるで奇跡のように絡み合い、固く丈夫で、しかも快適な生地に変化しているのを発見したと言われています。
これが、後のフェルト帽子の材料・帽体製造技術へと繋がったとされ、多くの帽子屋が毎年11月23日に彼の徳をたたえ、守護聖人としています。
フェルト帽子を持っている方はぜひ彼の徳を称えてください。
フェルトの起源に関する諸説
聖クレメンスの伝説は、中世の帽子職人がその技術を神聖なものとして受け継ぐために生み出した「フェルトの誕生秘話」と言えるでしょう。
フェルトの起源については他にも諸説あり、以下のような歴史が語られています。
- 古代の知恵:古代アラビアの遊牧民が、自然にもつれた羊毛のシートを身体に巻き付けていたとされる説。また、ラクダの獣毛をサンダルの底敷きにしていたことが始まりともされています。
- 東西の交流:十字軍の戦士たちが東洋の敵が天幕や馬の飾りにフェルトを使っているのを見て、西洋に持ち帰ったとされる説。
聖女カタリナ(St. Catherine of Alexandria)
美・知性、そして帽子の守護聖人

11月25日:HAPPY Saint Catherine's Day(セントキャサリンズデイ)
婦人帽子の職人(Modistes, Milliners, Hat-makers)や、お針子、そして独身女性の守護聖人として知られるのが、
聖女カタリナ(St. Catherine of Alexandria)です。
- 人物像:西暦3世紀のエジプト、アレクサンドリアに生を受け、当時最も知性、教養、そして美しさを兼ね備えた女性としてヨーロッパ中にその名が知れ渡っていました。
伝説:奇跡を起こした「壊れた車輪」
キリスト教信仰を貫いた彼女は、ローマ皇帝マクセンティウスに捕らえられ、車輪に括り付けて引き回すという凄惨な拷問を命じられます。
しかし、聖女カタリナがその車輪に触れた途端、車輪は奇跡的に粉々に壊れてしまいます。結局、彼女は斬首刑となってしまいますが、この伝説から、彼女の象徴は「壊れた車輪」となりました。
この「車輪」に由来し、車輪に関係のある職業である陶工、紡績業者、研ぎ職人、そして帽子職人や婦人帽製造業者の守護聖人として、厚い信仰を集めています。
世界の慣習:帽子と独身女性を祝う日
聖女カタリナの日は、特にフランスとイギリスで、帽子と女性を祝う伝統として現代に受け継がれています。
🇫🇷 フランス:「カトリネット祭」(Fête de sainte Catherine)
パリのお針子やファッション業界の女性たちにとって重要なこの祭りは、帽子職人のお祭りでもあります。

Geminiが作ってくれたイラスト(25歳以上のカトリネット協会)
- 伝統:中世では、25歳で未婚の女性「カトリネット(catherinettes)」が、聖女カタリナに良い結婚相手を見つけてくれるよう願いを込めて、特別な帽子を被って列をなしました。
- 現代:近年では、ファッション業界で働く女性たちが、聖女の象徴色である「希望の緑💚」と「知恵の黄色💛」で製作された突飛で華やかな帽子を被り、互いの幸せを願い、その創造性を競い合う祝祭へと変化しています。
特に、Diorのような長年の歴史を持つオートクチュール・メゾンでは、社員であるお針子や帽子職人を労い、毎年この伝統を祝うイベント「Le fete de Sainte Catherine et St Nicholas」が大切に開催されています。DiorのミリナーであるStephen Jones氏もこの祭典を盛り上げており、現代のオートクチュール文化における聖人の伝統と職人の結びつきを体現しています。
2024年のLe fete de Sainte Catherine et St Nicholas chez Dior
🇬🇧 イギリス:カタンケーキの祝祭
イギリスでは、かつてレースメーカーによって祝われました。
聖カタリナに敬意を表して「Cattern cake(カタンケーキ)」を焼き、
お祝いする習慣がありました。

UNDERGROUND BAKERYさんのカタンケーキとスコーン
- 歴史的繋がり:ヘンリー8世の第1王妃キャサリン・オブ・アラゴン(Catherine of Aragon)も、幽閉されていた地域でレースメーカーたちのパトロンとして尽力したことから、この日を祝う伝統に深く関わっています。
勤労感謝の日(11月23日)に倣い、11月25日は、クリエイティブな仕事に携わる方々を祝福する日にしませんか?
ぜひ「緑💚と黄色💛」の帽子をかぶり、美味しいカタンケーキとお茶を囲んで、創造的なすべての努力と幸せをお祝いましょう✨
